雨が止んだあとの中幸町は、空気が一段とやさしい。アスファルトは黒く濡れて光り、街路樹の葉先からは水滴がぽつりぽつりと落ちてくる。そんな景色のなかを、自転車を押して歩く時間は、晴れの日にはない静けさをくれる。
レインコートを着たまま、フードはおろして。ロングシルエットのコートは、停めた自転車のサドルから雨水が膝裏を濡らす心配もない。深いフードは、急にまた降り始めても、すぐに被り直せばいい。手袋は黒で、ハンドルへのグリップ感も損なわれない。
「自転車屋の仕事は、自転車を売ることではなく、その人の暮らしの隣に立つこと」と、二代目の克聰は言います。雨の日の道具を整えることも、その仕事の一部です。
